キャンパス全面禁煙のポーズ


キャンパスが全面禁煙になるという話を聞いた。もちろん以前から教室や事務室など、建物内のほとんどの場所での喫煙は禁じられていたのだが、今回は「キャンパスの」全面禁煙だそうだ。屋外の喫煙スペースもすべて撤去されるらしい(という噂だ)。

なんともいやな感じのする話だと思う。

学生は、吸いたければキャンパス内でタバコを吸うだろう。吸うなと言われたら吸わないという学生しかいないようでは、そもそも大学としては少々不安だ。
今まではそれでも喫煙スペースでの喫煙がメインだったが、喫煙スペースがないということになれば、わざわざキャンパスを出てからタバコを吸う人間はそう多くはなく、適当に場所を見つけて/作り出して吸うだろうし、おそらく大学はそれをいちいち取り締まりはしないだろう。中学高校ではあるまいし、そんな生活指導などを組織だってやりはじめるようでは、大学も終わりだ。

専任教員は、適当にどこででも吸うことはしないにせよ、おそらく自分の個人研究室では吸うだろうし、少なくとも当面の間は、これまた大学当局がそれをいちいち取り締まることはしないだろう(そもそもすべての個人研究室にチェックを入れるのは経費面からみても無理だと思う)。

キャンパスの全面禁煙でダメージを受けるのは、従って、大学の「教育部分」を構成する、いわば「主役」ではない。

影響を受けるのは、個人研究室を持たない非常勤の講師であり、さらに、各事務室や共同研究室に勤務する助教や嘱託、職員であり、あるいは大学生協の店舗に勤務する店員であり、あるいは構内の清掃や補修、さまざまな工事などに(そしてキャンパス内では驚くほどにしばしば何らかの土木作業が行われている)たずさわっている人達だ。おそらく超過勤務手当がきっちり支払われてはいないような長時間労働に携わっていたり、低賃金労働をしたりしている人達だ。大学という教育/研究機関がきちんと機能していくための舞台裏を支えている人達である。

この人達は、個人研究室を持たないという点で専任教員ほどに恵まれた労働環境にはないし、一定時間キャンパス内の職場に拘束されざるを得ないという点で、講義やゼミの時間さえ我慢すればキャンパス外に出られる学生ほどに自由に時間を使えるわけでもない。私の勤務先のキャンパスはかなり小さくはあるが、それでもキャンパス外に出るには数分はかかるわけで、キャンパス外に出てタバコをすって戻ったら10分15分はすぐに消えてしまう。

キャンパスのどこででもタバコを吸えるようにすべきだと言うのでも、禁煙エリアを縮小しろと言っているのでもない。

しかしそれでもこれは奇妙ではないのか。

キャンパスの全面禁煙は、専任教員に対しても学生に対してもおそらくは「ポーズ」以上の意味を持たないにもかかわらず、「裏方」の人達にとって、とりわけより恵まれない労働環境にいる人達にとってのみ、「ポーズ」ではない具体的な禁止となるのだ。その非対称にのっかってキャンパスの全面禁煙を実施していますよという外面を取り繕おうというのは、大学としてはいくぶん品位を欠いたふるまいだと思えるのだが。