ハード・キャンディ
- 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
- 発売日: 2007/02/23
- メディア: DVD
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Hard Candy (2006) dir. David Slade
体調が悪くて仕事にならず、好きな評論家が「これっておすすめ!」と大絶賛だったのを思い出して、気分転換に。
確かにかなりタイトにしあがっていて、無意味なドッキリ(これは苦手)に頼ることなく登場人物の間にうまれる緊張感だけで最後までひきこまれて見てしまうところがある。意外だったのは、公開当時から「痛い」とか「こわい」とか言われていたような記憶があったのだが、全然グロテスクでもないし皮膚感覚的に痛くもない。これは楽勝だ。
というか、そこがおそらくポイントで、「なに大騒ぎしているのよ、たかが玉抜きでしょ」などと思いつつ、余裕でジュースなどをすすりつつ鑑賞する、というポジションを可能にするところが、この映画のおもしろいところなのかもしれない。実際、去勢シーンをある種のクライマックス、見どころとしてピックアップしているレビューも多かったのだが、映画のバランスからいっても(去勢シーンは100分の映画の半ばくらいにはじまり70分あたりには終了してしまう)、クライマックスをそこに見てしまうと「あれ?まだ続くわけ?」という感じになりそう。つまり、映画としても、ひとつのヤマではあってもあくまでも「最後にむけてもりあがっていく過程」として去勢シーンをあつかっている。ということは、この映画が「おもてむき」想定している観客から、去勢シーンで痛みのクライマックスに達してぐったりしてしまうひとびとは、ずれてしまっている。
もちろんそれはあくまでも「おもてむき」であって、そういう観客が「え?」と思うことがこの映画のひとつの目的であるならば、彼らこそがこの映画が想定している観客だということもできるだろう。けれども、「映画をクライマックスまでもりあげるためのディバイスのひとつ」として、レイプシーンだの、(あとからヒーローに助けられるはずの/ヒーローがその死への復讐をしてくれるはずの)女性たちの拷問やら殺害やらのシーンだの、そんなものがごろごろしているなかでは、こういうずらしがちょっと小気味よかったりするのも、事実。
その意味では、少女の側の動機がいまひとつはっきりしないのは、むしろ当然のことかもしれない。ストーリー上は「少女のペドファイルへの報復」という形をとっているにもかかわらず、Hard Candyはその報復を1つの具体的なできごと(犯罪)に結びつけることを避けており、なぜ「この少女が」「この男に」報復するのか、という点は、最後まであきらかにならない。少女は男に、"I am every little girl you ever watched, touched, hurt, screwed, killed"と言うわけで、ここでwatchedが最初に来ていることも象徴的だ。おそらくここで描かれているのは、ひとりのペドファイルに対する制裁ではなく、自分が「みて=さわって=きずつけて=おかして=ころす」立場にあることを疑わない者に対する制裁なのであり、だからこそ、この制裁を(たとえば少女は男の殺した/犯したほかの少女のともだちだった、というような)「この少女」と「この男」との具体的な関係に還元するわけにはいかないのだ。(そのあたりで、この映画はいわゆる「サスペンス」というよりは「ホラー」なのだと思う。)
そもそも少女の側にはっきりした動機があればいいのにと願うのは、それによって観客が少女に多少なりとも共感できるかもしれないと思うからだ。なんといっても男の方はペドファイルであり、実際に手をくだしたかどうかは別にして殺人の現場にいあわせてそれを撮影していたことも最後にはあかされるわけで、少女に感情移入して男の側を憎むことができれば、観客としてはその方があきらかに楽なのだ。
けれども、もちろん、そもそも少女が「制裁」を加えようとしているのは、ペドファイルの男であると同時に、映画を「みて」いる観客(少女の「制裁」に多少なりとも小気味よさを感じた観客をも含めて)であるので、映画としてはそこで観客が少女の側にかんたんに感情移入することを許すわけにはいかない。視線をさえぎるようにフードをかぶった少女がカメラを黙殺して歩きさるラスト・ショットが示しているように、少女は観客との共犯関係を拒否しているのだ。
とはいえ、そうなると、この映画それ自体をとっているカメラと観客の共犯関係はどうなるんだろうか、という話になるわけで、というよりそこがはっきり言えないとこの映画についてはあんまり何も言えていないような気もするのだが、ちょっと今はそこがまとまらない。
あとは、エレン・ペイジ。絶対にゆらがない確信と、追いつめられたような不安定さとが絶妙にいりまじっていて、すごい。